労働問題

退職勧奨について

退職勧奨とは

退職勧奨とは、使用者側が労働者に対して退職を促すことをいいます。
人員削減の必要があるためになされる場合や、勤務態度が悪かったり成績が不振な労働者に対して退職を勧めるような場合や、あるいは、いやがらせ、つまりパワハラとして行われる場合などもあります。

退職勧奨と解雇との違い

まず、退職勧奨は、解雇とは違い、使用者が一方的に労働契約を解消するものではありません。
労働者にとっては、使用者側から退職を促されるものですから、解雇と同じようなものと感じるかもしれません。しかし、退職勧奨に応じるかどうかは、労働者の自由な意思で判断することができるため、解雇とは異なります。そのため、労働者が、使用者との間で退職に応じる場合の条件などを交渉することもできますし、そもそも退職には応じないという選択をすることもできます。

提出する書面に注意

使用者側からすれば、退職勧奨をして労働者に退職してもらう場合には、退職勧奨に対して労働者の承諾が必要になります。そうすると、労働者が後になって「退職を承諾していない」と主張し、争いになる場合も想定されます。そこで、一般的には、退職勧奨に対して労働者が承諾をした場合には、会社から書面の提出を求められることが多いかと思われます。

ただ、この提出を要求される書面については、注意が必要です。ここで提出を要求されるべき書面は、退職勧奨を受け入れる場面に要求される書面ですので、本来は「会社から退職勧奨を受け、私はそれを受け入れます」という書面を提出することになるはずです。

しかしながら、この会社から要求される書面として、退職届を提出するように指示をされる場合があります。退職届は、通常、自ら退職をする際に提出するものですので、会社の要求通りに素直に退職届を提出してしまうと、通常の退職届が提出された場合として、つまり、自己都合退職として処理されてしまい、退職勧奨を受け入れた退職として処理されないおそれがあります。その場合には、次のような差が出てきてしまいますので、退職届の提出を要求されても絶対に提出しないでください。

自己都合退職と会社都合退職

自己都合退職とは、労働者側の理由に基づく労働者からの申出による退職をいい、他方、解雇を含む会社側の判断・都合によって退職する場合を会社都合退職といいます。

この2種類の退職の違いは、失業保険の給付内容に現れます。会社都合退職の場合、突然の退職となり再就職に向けた準備ができなかったものとして判断されるため(特定受給資格者といいます)、失業保険の受給が7日後から開始されます。また、失業保険の給付日数についても、30日から330日の期間に渡り受け取ることができます。

これに対し、自己都合退職の場合、自ら退職をしている以上、再就職についても準備ができているものとして対応されます(一般受給資格者といいます)。

そのため、失業手当の給付に3か月間の待機期間があり、失業から3か月間は失業手当を受け取ることができません。また、失業手当の給付日数についても、30日から150日と短くなっています。そのため、同じ『退職』であっても、会社都合であるのか、自己都合であるのかは非常に重要になってきます。

退職勧奨を承諾してしまった後には争えないの?

会社からの退職勧奨に対して、承諾して退職をしてしまった場合であっても、「退職勧奨が無効なものであった」、あるいは、「退職勧奨が違法であった」として、争うことができる場合もあります。

例えば、以下のような場合には、解雇と同様の扱いであり、退職の強要であるとして、退職勧奨は無効とし、退職勧奨後の賃金相当額の支払いを命じた裁判例があります。退職勧奨に対する承諾については、労働者が自らの自由意思で判断することが前提ですが、このようなケースでは自由意思で行われた意思決定とは言えないからです。

EX.
退職勧奨の面談の場において、「退職に応じないならば当然に解雇になる」という発言が会社側からあり、それを避けるために退職したほうが良いといった説得がされたケース

また、以下のようなケースでは、退職勧奨としての許容限度を超えた退職の強要であるとして、違法なものと認定して、慰謝料の支払いを命じた裁判例もあります。

EX.
①退職勧奨の面談が多数回も行われたり、面談があまりに長時間になっているようなケース
②退職勧奨の前にあるいは同時期に、配置転換がされ、それまでの労働と全く異なる軽作業、あるいは何も仕事をさせないというような業務命令がされているようなケース

もっとも、いかなる場合に事後的に退職勧奨について争えるかについては、事案ごとの個別具体的な判断が必要となります。