初めての相続・遺言

相続財産の調査

相続財産の調査

亡くなった人の財産を相続する際には、故人がどのような財産を持っていたのかを調べなければなりません。これから相続人の間で遺産分割協議を行い、財産を分けるためには、そもそもどのような財産が残っているのかがわからなければ、話が進まないからです。
相続財産を調べるにあたっては、厳密には2つの点について考える必要があります。1つ目は、「故人にどのような財産が残っているのか」について、2つ目が「その財産をいくらだと評価できるのか」についてです。ここでは、どのような財産が残っているのかについて説明します。

※「その財産をいくらだと評価できるのか」については「遺産の評価でもめている場合」を参照。

相続財産の調査にかかる時間

相続財産の調査をするにあたり、残っている故人の財産が種類・量ともに少ない場合には、比較的簡単に済みます。
しかし、たくさんの財産が残されていて、かつ、どのような財産を持っているのかを生前に聞いてない場合には、非常に多くの時間と手間がかかります。また、調査した相続財産に漏れがある場合、受け取れるはずの財産を受け取れなくなってしまうこともあることから、どうしても丁寧に細かく調査をしようとして、さらに時間がかかってしまいます。そうはいっても、どんなに複雑で時間がかかってしまうケースであっても、相続放棄ができる「相続があったことを知った時から3ヶ月以内」には、なんとか調査を終わらせなければなりません。
そこで、少しでも早めに調査を始めなければいけませんし、自分だけでは難しそうであれば弁護士の力を借りるのも一つの方法です。

相続財産にはどんなものがあるの?

相続財産の内容には、様々なものが含まれています。そこには、プラス財産が該当するのはもちろん、借金などのマイナス財産も含まれます。特にマイナス財産の有無については、「今後相続をすべきか、それとも放棄すべきか」を決めるキーポイントになりますから、絶対に見落とさないように注意が必要です。 実際の相続の場面でよくある財産としては、次のものがあります。

プラス財産

  • 現金(タンス預金)や預貯金
  • 自動車
  • 貴金属や美術品
  • 土地や建物、分譲マンション
  • 株式や投資信託
  • ゴルフ・リゾート会員権

など

マイナス財産

  • 借金・ローン
  • 滞納税金
  • 保証人の地位

など

具体的な財産の調べ方

基本的にどんなものを調査するにしても、まずは取っ掛かりが必要です。そこで、具体的に財産を調べようとした際には、故人の身の回りの物を調べることから着手することになります。
まず、故人の自宅を網羅的に調べ、残されている通帳やクレジットカード、契約書や請求書や領収書、納税通知書や確定申告書、日頃の郵便物などを見つけます。これらをもとに、どのような種類の財産がありそうか、当たりをつけます。そこから、それぞれの財産について、深く突っ込んで調べていくことになります。
なお、各種財産を調べてわかった結果については、財産目録という財産の種類と金額を一覧にしたものを作成します。

プラス財産から始めよう

まずは、プラス財産の中でも、特に預貯金や不動産や株式・投資信託等について、優先して調べましょう。なぜなら、これらのものは高額になることも多く、財産の総額への影響が大きいので、時間をかけて慎重に調べたいからです。
しかし、何よりも一番の理由は、最初に預貯金、つまり銀行口座の過去の取引履歴を手に入れたいという点にあります。預貯金の取引履歴には、他口座への振替や証券口座への出入金、税金の支払いや還付、借り入れや返済など、故人のお金の流れが克明に記録されていますので、これから財産を調べていくにあたっての貴重な情報源になります。

預貯金の調査

預貯金については、残されている通帳とキャッシュカード等から、どの銀行のどの支店に口座があるかを調べます。銀行名と支店名がわかったら、その支店に問い合わせて、取引履歴の開示と残高証明書の発行をしてもらいます。この開示の請求については相続人であれば可能ですので、その証明として戸籍謄本を持参すると安心です。
また、その時に、併せて口座の名寄せも行っておくとよいです。名寄せとは、その支店に故人の口座が他にもないかを調べ、あった場合にはその残高を合算してくれる手続きのことです。これを行うことで、調査における口座の漏れを防ぐことができますが、あくまでその支店にある口座しか調べることができない点には注意が必要です。

口座がありそうだと思われる全ての銀行の支店に対して、このような手続きをとります。故人にたくさんの口座がある場合においても、銀行口座の中身を一括で調べる方法はありませんので、一つずつ地道にやっていきましょう。

【知っておきたい!】

預貯金を調べる際に、銀行に本人が亡くなったことを伝えると口座を凍結されてしまいます。引き落とし口座の変更手続き等は事前に済ませておきましょう。

【知っておきたい!】

少し厄介なのが、ネット銀行の口座を持っている場合です。ネット銀行については、通帳は基本的にありませんし、キャッシュカードも作っていない場合があります。ですので、ネット銀行については、他の預貯金口座の取引履歴、ネット銀行の口座開設時に送られてきている郵便物(IDなど重要情報が記載されているので通常は保管してあるはず)や、メモで残してあるかもしれないログインID・パスワード、パソコンの履歴やスマホにインストールされているアプリ等から、その口座の存在をたどることになります。

不動産の調査

保有している不動産を調べるにあたっては、まずは家のどこかに登記識別情報を通知した書類(昔でいう権利証)が保存されていないかを調べます。または、不動産を所有している場合、毎年5月頃に家に届いているはずの固定資産税の課税通知書によっても、確認することができます。

しかし、これらの書類がない場合には、故人の不動産があるかもしれない市区町村役場にて、名寄帳を取得します。名寄帳とは、その人がその市区町村内に所有している不動産を全て記載してある資料をいいます。この名寄帳を見れば、どのような不動産を保有しているのかが一目瞭然になるわけです。もっとも、あくまでその市区町村内の不動産についてのみ記載されていますので、その他の市区町村にある不動産については、別途そちらの役所で名寄せを行う必要があります。

そして、その取得した名寄帳に記載されている不動産について、法務局にて登記事項証明書を取得します。この登記事項証明書には、抵当権など担保権についての記載もありますので、マイナス財産の調査を同時に行っていることにもなります。

株式や投資信託の調査

株式・投資信託などの調査については、基本的には預貯金と同じような手続きをとります。
まず、証券会社から送られてきている書類や取引報告書等の郵便物から、どこの証券会社に口座を持っていそうかを調べます。また、株式や投資信託を売却した場合には、売却代金は証券口座に入金された後に、銀行口座へと出金される場合が多いので、銀行口座の取引履歴をチェックすることも重要です。そして、口座を保有している証券会社がわかったら、その証券会社に問い合わせて、取引残高報告書を発行してもらいます。

もっとも、株式についての書類は一切見つからないが、生前に株式を保有していたと思われる話を故人や周りの人から聞いていたようなケースもあります。そのような場合には、証券保管振替機構(いわゆる「ほふり」)に登録済加入者情報の開示を請求するとよいでしょう。この請求は有料ではありますが、故人がどの証券会社に口座を持っているのかを一括で調べることが可能ですので、非常に便利です。

マイナス財産の調査も忘れずに

プラス財産について調べ終わったら、次にマイナス財産についても調査します。上記で調べたプラス財産よりも、ここで調べるマイナス財産の金額の方が大きい場合には、相続を放棄した方がいいケースが多くなりますので、プラス財産以上に慎重に調べる必要があります。
にもかかわらず、マイナス財産については、人に言いにくいものだということもあり、故人が生前にあまり周りにその存在を話していないことも多いですし、また、残されている郵便物等からだけではなかなか見つけにくいこともありますので、要注意です。

借金・ローンの調査

借金と一言でいっても、銀行や消費者金融からお金を借りている場合や、クレジットカード会社からキャッシングをしている場合、はたまた住宅や自動車のローンがある場合など、様々なケースがあります。

消費者金融や銀行のカードローンで借り入れを行っている場合には、専用のカードを持っている場合が多いですので(最近はカードレスも増えてきていますが)、故人の家にてカードが見つからないかを調べます。それに加えて、最初の借り入れ時の契約書や返済時の領収書等も探してみましょう。
また、クレジットカードのショッピングやキャッシングの利用がある場合には、クレジットカードが財布の中に入っていることが多いしですし、また、基本的には支払いが銀行口座からの引き落としで行われていますので、口座の取引履歴で確認をします。

なお、消費者金融や銀行でお金を借りている場合や、各種ローンを組んでいる場合、さらにはクレジットカードを持っている場合には、信用情報機関というところにその旨の情報が登録されています。ですので、有料ではありますが、この信用情報機関に情報の開示を請求することが、最も確実な方法です。

滞納税金の調査

相続の場面において、実際に滞納されていることが多い税金には、住民税、固定資産税、自動車税や軽自動車税などがあります。
これらの税金の滞納があるかどうかを調べるには、まずは督促状等の郵便物が届いていないかを調べます。税金については、行政は意地でも回収するというスタンスを取っていますので、納付期限が過ぎている場合には必ず督促状等の書面で催告がされているはずです。
それらの書類が見つからない場合には、念のために役所に問い合わせてみましょう。税金の滞納がある場合には、滞納税金等の一覧表を発行してくれます。税の種類によって問い合わせるべき役所は異なりますが、基本的には故人の住所のある市区町村役場になります。

保証債務の調査

意外に見落としやすいものとして、故人が生前に誰かの保証人になっている場合があります。相続をする場合には、この保証人としての地位も、故人から相続人に承継されてしまいます。とすると、故人に保証債務が残っている場合には、相続をしてから何年も経ったある日、突然多額の借金の支払いの肩代わりを請求されてしまうことも考えられます。
ただ、保証債務については、借金や税金等のように「ここに問い合わせれば保証債務があるかどうかが必ずわかる」という決まった問い合わせ先があるわけではありません。さらに、故人の家を探しても保証の契約書すらない場合がありますので、調査には困難が伴います。