離婚問題

離婚にあたっての金銭問題

離婚時のお金の問題

いざ離婚をするにあたっては、様々な事柄についてしっかりと決めた上で離婚しなければ、後々トラブルになってしまいます。とりわけ、後日トラブルが起こりやすいものの代表である「お金に関する問題」と、「子供に関する問題」については、夫婦間できちんと取り決めをしておく必要があります。ここでは、お金に関する問題について説明します。
離婚時に考えておかなければならない主なお金の種類としては、慰謝料、財産分与、年金分割、婚姻費用、養育費があります。これらについて、十分な知識がないと、本来は払ってもらえるお金を受け取れなくなってしまったり、または逆に、支払わなくていいお金を払ってしまうこともあり得ます。そうならないよう、離婚時に問題となるお金について、以下で解説します。

慰謝料

離婚をする際には、どんな場合でも慰謝料を請求できる、または請求されてしまうものだというイメージがあるかもしれません。しかし、これは間違いで、慰謝料を請求できる場合もありますし、請求できない場合も多々あります。
そもそも、離婚における慰謝料とは、離婚の原因となった出来事(例えば不倫)により精神的苦痛を受けた場合に、その精神的損害に対してお金で賠償してもらうことをいいます。より専門的に言えば、慰謝料とは、精神的損害に対する損害賠償金の請求ということになります。

どのような場合に慰謝料を請求できるの?

この慰謝料は、法的には不法行為に基づく損害賠償という性質ですので、請求する相手が「違法な」ことを行っていなくては請求できません。
そこで、離婚において慰謝料を請求するためには、夫・妻が違法なことを行っていて、それが離婚の原因となっていることが必要となります。
具体的には、

このようなケースでは、相手に慰謝料を請求できることが通常です。
逆に、性格の不一致や価値観の相違があるから離婚したいという場合には、夫婦のどちらも違法なことは行っていないので、慰謝料が発生することはありません。
なお、慰謝料については、離婚の時から3年が経過すると時効となり請求できなくなってしまうので、注意が必要です。

慰謝料の相場はどれくらい?

離婚における慰謝料について、大体いくらぐらいの金額で認められるかについては、その事案ごとに変わってきます。その金額は、婚姻期間の長さや請求する相手の年収・保有資産額、さらに子供の有無や年齢、心を傷つけられた違法行為の程度の強弱など、様々な事情により上下するからです。
ただ、通常はこれくらいになるという相場はあり、不倫の場合ですと100万円〜300万円ほど、DVを受けていた場合も同じく100万円〜300万円ほどになる場合が多いです。ただ、モラルハラスメントのように立証が難しめになる違法行為の場合には、相対的に不倫やDVよりも少し低めの金額になることが一般的です。

財産分与

財産分与とは、婚姻中に夫婦で築いた共有財産について、離婚をする際に夫婦で分配することをいいます。例えば、結婚してから貯めた預金がある場合や、購入した家がある場合には、この財産分与を請求できます。財産分与については、離婚の時から2年以内に行わなければならないと民法に規定されているため、受け取れる可能性がある場合は、早めに請求しなければなりません。

財産分与の種類

この財産分与は、厳密に分類すると、精算的財産分与、扶養的財産分与、慰謝料的財産分与の3つの種類に分かれます。

①精算的財産分与

一般的に財産分与といえば、この精算的財産分与を指します。精算的財産分与とは、離婚により夫婦の婚姻関係が解消される以上、婚姻中に夫婦が協力して築いた財産についても、その貢献度に応じて精算するべきであるという考えに基づき、財産を分配することをいいます。

②扶養的財産分与

扶養的財産分与とは、離婚することにより夫・妻の片方が経済的に苦しくなり生活できなくなってしまう場合に、その生活を補助するために扶養としての目的で財産を分配することをいいます。夫・妻の一方が病気だったり障害があったりして働けない場合など、今後の生活をするための最低限の収入が期待できない場合に用いられます。

③慰謝料的財産分与

慰謝料的財産分与とは、離婚の際に相手に対して慰謝料を請求できる場合、慰謝料ではなく財産分与の中に慰謝料の意味を含めて財産を分配することをいいます。もっとも、財産分与と慰謝料は、同じ金銭のやり取りとはいえ、それぞれ全く別の法的性質を有するものですので、財産分与の中に慰謝料の意味合いを含めてしまうと、その財産分与の意味内容がわかりにくくなってしまいます。そこで、この慰謝料的財産分与は、実務においてはあまり使われていません。

財産分与の割合・金額

財産分与がされる場合、夫婦の共有財産について、一体どのような割合で分配することになるのでしょうか。これについては、原則として、夫婦それぞれ2分の1ずつの割合で分けることになっています。ですので、「夫のみが働いて給与を得ていて妻は専業主婦というケース」であっても、夫婦になってから築いた財産(貯金や不動産等)は、2分の1ずつに分けることになります。これは、妻が専業主婦として家事に専念してくれていたことにより、夫は収入を得ることができたと捉えることができるので、夫の給与から生じた財産は夫婦で協力して築いた共有財産であり、また、その貢献度は50%ずつであると評価されるからです。

もっとも、例外的に、2分の1ずつという割合で評価されない場合もあります。例えば、夫が自分の小遣いで宝くじを買ったら1億円が当たった場合です。このような場合には、宝くじで得た1億円についても、財産分与の対象にはなりますが、その貢献度は夫婦それぞれ50%ずつではなく、夫の貢献度が高いと評価されます。

このように、実際の財産分与の割合については、具体的な事案での様々な条件により変化しますので、弁護士に相談するのが確実ではあります。

財産分与の対象になるもの

財産分与をする場合、夫・妻がそれぞれ持っている財産の中で、どの財産が財産分与の対象になるのでしょうか。この点については、夫婦が結婚後に協力して築いた財産が全て財産分与の対象になるとされています。これを共有財産といいます。
この共有財産にはどのようなものがあるかというと、具体的には、結婚後に貯まった預貯金(口座の名義が夫か妻かは問わない)、結婚後に購入した不動産・自動車・株式、さらには退職金などが挙げられます。
財産分与の対象になるかどうかを考えるにあたっては、基本的には、「夫婦で協力して築いた財産かどうか」を基準とします。

財産分与の対象にならないもの

上記のように、財産分与の対象になるかどうかは、「夫婦で協力して築いた財産かどうか」が基準となりますので、それに当てはまらないものは財産分与の対象にはなりません。この財産分与の対象とならない財産のことを特有財産といいます。
特有財産であると評価されるものとしては、具体的には、結婚前から有している預貯金、結婚前から有している不動産・自動車・株式、親から贈与でもらったお金、相続によって得たお金などがあります。
また、忘れがちなものとして、夫婦が不仲になり別居をした場合、別居後に得た財産については、財産分与の対象とならない特有財産とされています。なぜなら、別居後ということであれば、すでに夫婦の協力関係が破綻してしまっているわけですから、「夫婦で協力して築いた財産」とは言えないからです。

債務の取り扱いはどうなる?

では、住宅ローンや借金などの債務についても、結婚後に借りたものであれば財産分与の対象として、2分の1ずつ夫婦で分けることになるのでしょうか。一見、そのように考えるのがフェアに思えますが、そうではありません。ローンや借金等の債務については、財産分与の対象にはならないというのが、実務上の取り扱いです。
ですので、例えば、結婚後に組んだ夫名義の住宅ローンが1000万円残っている場合でも、それを2分の1にして夫と妻がそれぞれ500万円ずつの借金を背負うということにはならず、夫が1000万円のローンを背負ったままということになります。

価格の評価で考慮

こう考えると、夫ばかり損をしていて公平ではないように思えますが、心配はいりません。このような債務については、財産分与の対象とはならなくても、財産分与の対象となる財産の価格評価の場面で考慮されます。つまり、財産分与の対象となるプラス財産の総額をはじき出すときに、債務というマイナス財産の金額分を差し引いて計算することになります。

例えば、住宅の評価が2000万円で夫名義の住宅ローンが1000万円残っている場合、プラス財産が2000万円でマイナス財産が1000万円なので、2000万円−1000万円=1000万円となり、財産分与の対象となる財産の総額は1000万円であると評価されます。そうすると、夫から妻へ渡すべき財産分与額は、その2分の1の500万円となります。夫は2000万円の住宅が残りますが、妻へ500万円の財産分与を支払い、かつ、ローンで1000万円のマイナス財産がありますので、差し引き500万円のプラスということになります。これなら、夫婦で公平な結果になっていると言っていいでしょう。

【注意!】

なお、夫婦の婚姻という共同生活のためになされた借金以外の債務については、財産分与の際に考慮されません。例えば、夫が結婚後に自分の趣味のギャンブルのために借金を重ねていたような場合は、財産分与の計算の際にそれは完全に無視されますので、妻に不利益はありません。

年金分割

年金分割とは、離婚をする場合に、婚姻期間中に納めた夫・妻の厚生年金(旧共済年金も含まれる)について、納付実績の多い方から少ない方へと分割し、婚姻期間中の厚生年金の納付実績を夫婦間で調整することをいいます。
この年金分割の目的は、婚姻期間中に厚生年金の納付額が少なかった(もしくはなかった)者に対して、離婚後に到来する老後の生活を保障しようとする点にあります。
年金分割については、離婚から2年以内に請求しなければならないため、年金分割を受けられる可能性がある場合には早めに請求しなければなりません。

年金分割の対象となる年金は?

日本の年金制度は、1階部分の国民年金と2階部分の厚生年金、3階部分の企業年金等に分かれていますが、年金分割は、このうち2階部分の厚生年金(旧共済年金も含む)のみを対象としています。ということは、基本的には給与所得者(サラリーマン等)に適用される制度であり、自営業者の場合は厚生年金に加入できないことから年金分割をすることはできないということになります。
また、年金分割は、あくまで婚姻期間中の厚生年金の納付実績を夫婦間で調整する制度ですので、結婚する前に納付した厚生年金や離婚後に納付したものについては、その対象にはなりません。
年金分割は、あくまで「婚姻期間中の厚生年金のみ」を対象としているということです。

年金分割の種類

年金分割には、合意分割と3号分割という2つの種類があります。年金分割をする場合には、この2つの年金分割のどちらかを利用するか、その両方を併用することになります。では、合意分割と3号分割とは、どのようなものなのでしょうか。

①合意分割

合意分割は、夫婦間での合意によって、2分の1までの範囲内で分割する割合を決定するものです。共働きの夫婦の場合には、以下の通り3号分割を用いることはできませんので、この合意分割を利用することになります。もし夫婦間では合意できない場合には、家庭裁判所の決定に任せることになります。
以下で説明しますが、3号分割と異なり、2008年4月より前の厚生年金の納付実績にも適用されます。

②3号分割

3号分割とは、夫婦の一方が専業主婦や扶養の範囲内で働くパートなどの「第3号被保険者」である場合に利用できるものです。3号分割の場合には、合意分割の場合とは異なり、夫婦間での合意は必要なく、自動的に2分の1ずつに年金が分割されることになります。
もっとも、3号分割には注意すべき点があり、2008年4月以降の厚生年金の納付分にしか適用されません。ですので、2008年4月より前から婚姻していた場合には、それ以前の納付分については合意分割により分割する必要があります。

婚姻費用

婚姻費用とは、夫婦が共同生活を送る上で必要となる費用全般のことをいいます。簡単に言えば、毎月かかる生活費のことです。具体的には、家賃、食費、光熱費、被服費、日用雑貨費、子供の教育費等が含まれます。
この婚姻費用は、夫婦が仲良く生活しているうちはあまり問題にはなりません。夫婦ふたりと自分の子供の生活費ですので、夫婦で収入の多い方が相手の分も一定程度支払うことにあまり違和感がないからです。
しかし、いざ離婚となると、夫婦仲はすでに険悪となっていることが多いので、子供の分はともかく相手の分の生活費を支払うことに強い心理的な抵抗が出てくる場合があります。そのような場合に、この婚姻費用の分担が問題となります。

どのような場合に婚姻費用を請求できるの?

そもそも、民法では、夫婦は同居し、互いに協力し、扶助しなければならないと定められていて、夫婦には協力し助け合い共同生活を送る義務があります。そこで、毎月かかる生活費についても、それぞれの収入の割合に応じて、互いに負担する義務があります。そうだとすれば、夫・妻としては、自分が相手よりも収入が少ないにもかかわらず、相手が生活費を支払ってくれていない場合には、婚姻費用を請求できることになります。
実務において婚姻費用の分担が問題となった場合、婚姻費用を請求できるとされているのは、次のようなケースです。

  • 夫婦が別居していて、収入が多い方が少ない方に生活費を渡していない場合
  • 夫婦は未だ同居しているが、収入が多い方が少ない方に生活費を渡していない場合

婚姻費用については、夫婦が別居しているケースで特に問題となる事が多いですが、それは別居先での生活費まで相手が支払ってくれていることが少ないためです。婚姻費用は別居時に限定された問題ではありませんので、たとえ同居していても生活費を受け取っていない場合には、婚姻費用を請求することが可能です。
もっとも、別居の原因が自分にあるような場合(モラハラから逃げるために別居せざるを得なかった場合など)、たとえ相手の方の収入が多く、それなのに生活費を支払ってくれていないとしても、例外的に婚姻費用の分担が認められないことがあります。

婚姻費用の相場はどれくらい?

婚姻費用については、夫婦の収入や子供の年齢・数などを総合的に考慮して、夫婦間の話し合いでその金額を決定します。しかし、話し合いでは決まらないことも多いため、実際には裁判所にて、調停・審判で「婚姻費用算定表」というものに基づき金額を算定するという運用がなされています。この算定表は裁判所のホームページでも公開されていますが、この算定表に夫婦の収入や子供の数・年齢等の条件を当てはめれば、大体の目安金額がはじき出されるようになっています。
もっとも、この算定表に従うとあまりに妥当でない金額になってしまう特殊な事情がある場合には(例えば、夫婦合意の上で子供が私立の小学校に通っている等)、そのような事情も考慮して決定されます。

養育費

養育費とは、子供を監護している夫・妻から子供を監護していない夫・妻に対して、請求される子供の生活に必要な費用全般のことをいいます。具体的には、子供の生活費と教育費がこれに該当します。
養育費の請求が認められている趣旨は次のとおりです。そもそも、離婚をするにあたって夫婦に子供がいる場合には、その子供の親権者・監護権者を夫婦のどちらにするかを決めなければなりません。しかし、たとえ離婚して親権者・監護権者にはならず子供と一緒に暮らせなくなったとしても、それで自分の子供でなくなるわけではありません。子供が一定の年齢になるまでは、今まで通り親として子供を扶養する法律上の義務があるわけです。そこで、子供を監護することになった側は、子供を監護していない側に対して、その子供を扶養するためにかかる費用を一定割合負担するよう請求できるわけです。

【知っておきたい!】

養育費は夫から妻へ支払われるものだというイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありません。離婚をすると、子供がまだ幼い場合には妻が親権者(子供の監護をすることを含む権利です)になることが多いです。となると、養育費があくまで「子供を監護している親から監護していない親へ」請求されるものである以上、必然的に妻から夫へと請求される場合が多いので、そのようなイメージが定着しているわけです。ですので、夫が子供の監護をする場合には、妻に対して養育費を請求できます。

養育費の金額の決め方

養育費の金額については、上記婚姻費用の場合と同様、通常は「養育費算定表」を用いて決定されます。その内容も婚姻費用の場合と全く同様で、夫婦の年収、子供の数・年齢によって、いくらになるかが変わってきます。

養育費はいつまで支払われるの?

上記の通り、養育費は子供を扶養するための費用を夫婦間で分担するためのものです。そうであるとすれば、子供を扶養する必要がなくなるまで養育費の支払いは続くはずです。
では、子供を扶養する必要がなくなるのは、子供が何歳になった時なのでしょうか。この点については、判断が難しいところで、例えば、大学まで進学するのであれば卒業する22歳頃まで扶養が必要とも考えられますが、高校を卒業して就職するのであれば、18歳頃までだとも考えられます。
ただ、そもそも子供が幼いときに離婚をする場合には、子供が10数年後にどうするのかは全くわからないわけです。そこで、まだ子供が幼い場合には成年に達する20歳までとされる場合が多く(この場合でも夫婦の合意で18歳等とすることもできます)、ある程度進路が定まっている場合には18歳〜22歳までの支払いとされることが多いです。
このように、具体的に何歳まで支払われるかは、ケースバイケースではあるのですが、夫婦の子供がなんとか独り立ちすると認められる年齢までは続くことになります。