労働問題

未払い残業代・賃金の請求

残業代や賃金について、企業から適切な支払いがされていない場合、その請求額はどのように計算すればよいのでしょうか。

残業代を支払ってもらえる場合は?

まず、残業代がいくらになるかを考える前提として、そもそもどのような場合に残業代の支払いを受けることができるのでしょうか。
このことについて、法律は、「労働時間については1日8時間、1週間では原則として40時間を超えてはならない」という規制をしています(小規模の商業・サービス業では、週44時間という例外もあります)。
そのため、この『1日8時間、1週間で40時間』という制限を超える労働をした場合、その超過部分について残業代の支払いを受けることができます(労働基準法32条2項)。

EX.

①1日10時間働いたケース

2時間分(10時間 ─ 8時間)

②1日8時間の労働を1週間のうちに6日間続け、合計48時間働いたケース

8時間分(48時間 ─ 40時間)

上記①、②の場合には、このような超過分について残業代の支払いを受けることができます。

割増賃金について

では、具体的に残業代はどのように計算するのでしょうか。
原則として、残業した時間に対して、基本となる給料を25%以上割増しした賃金の支払いを受けることができます。ただし、1か月60時間を超える残業をした場合は、60時間を超える時間部分については、50%以上の割増しした残業代となります。

深夜労働

また、残業代とは異なるものですが、午後10時から午前5時までの深夜労働については、25%以上の深夜割増賃金の支払いを受けることができます。
たとえば、1日8時間を超える残業で、かつ、その残業が深夜労働になる場合は、残業としての25%と深夜労働に対する25%の割増賃金の支払いを受けます。

休日労働

さらに、法定休日に仕事をした場合は、休日労働として、基本となる賃金の35%以上を割増しした賃金の支払いを受けることができます。
なお、この休日労働は、週1日だけ定められている法定休日に働いた場合をいいます。たとえば、実際には週休2日制となっている企業も多いと思いますが、このうち、日曜日が法定休日で、土曜日は会社が任意で定めた所定休日であることが多いです。この場合、土曜日の出勤は割増賃金を払ってもらう休日労働とは異なりますので、注意が必要です。
ただし、企業によっては、法定休日、所定休日の区別なく、休日の出勤を全て休日労働として扱ってくれて、割増賃金を払ってくれている場合もあります。あくまで、法律は、最低限の基準を定めたものですので、労働者にとって有利な方法であれば、法律が禁止するものではないですし、望ましいものといえるでしょう。

割増賃金の具体的な計算

では、例えば25%や35%の割増の基本となる給料は、具体的にはどのように計算するのでしょうか。
一般的な企業では、賃金の定め方として、月給制が多く採られています。この月給制の場合、残業代・割増賃金の計算は、まず、月の賃金を月の所定労働時間で割ることからスタートします。

月の賃金÷月の所定労働時間=1時間あたりの賃金

月ごとの所定労働時間

所定労働時間については、例えば、1日8時間の労働を1か月に23日行った場合であれば、184時間が所定労働時間になります。

月ごとの賃金

そして、月の賃金とは、基本給や役職手当などの合計を言いますが、この計算には、家族手当、通勤手当、住宅手当、精勤皆勤手当、賞与などは含みません。つまり、仕事内容に対する賃金のみが対象になり、生活状況に関するもの(家族手当や通勤手当)や1か月を超える期間に対して支払われるもの(賞与)は含まないということです。

ここでようやく具体的な計算が可能に

以上の計算から、まずは1か月の給料における1時間あたりの賃金が算出できます。これを基礎として、残業代について割増賃金を適用して計算していくわけです。
また、実際に支払いを受けるのは、割増しした賃金を加えたものですから、25%の割増分だけではありません。その時間に対する通常の賃金100%と、これに25%を割増しする必要があるため、残業時間に対してその125%分となります。

固定残業代とされているケース

残業代の支払い方法としては、毎月一定額を固定残業代として支払うという方法があります。 その中でも、例えば、「残業代は固定給に含まれている」と、企業側から事前に説明を受けている場合があります。しかし、この固定残業代という支払い方法は、その支払い方によっては適切とは言えない場合があるので、注意が必要です。
まず、残業代の支払いについて、毎月定額に定めてこれを固定残業代として支払うこと自体は、残業時間に対して適正な割増賃金を支払っている限り、許される支払方法です。ですので、残業代を固定給に含めて支払うこと自体は、違法ではありません。
しかし、その固定給の中で、通常の賃金部分と固定残業代部分とが明確に区別されていなければなりません。これが区別されていなければ、残業代としての適正な支払いがされているとは認められません。

時効について

未払いの残業代や賃金がある場合には、そのことが分かった時点で速やかに請求をする必要があります。
残業代や普段支払ってもらう賃金については、消滅時効の期間が2年と定められているため(労働系基準法115条)、過去何年にも渡って残業代や賃金の支払いが適切にされていない場合であっても、現時点から2年分までしか支払ってもらうことができません。
そのため、残業代や賃金の請求について、未払いがあるのではないかと思ったら、すぐに弁護士にご相談ください。