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立ち退き・明渡し

立ち退き・明渡し

賃料等の滞納等を理由として、賃借人(不動産を借りた人)に出ていってもらう場合、最初に交わした賃貸借契約を解除した上で、不動産を明け渡すよう賃借人に請求することになります。
ただ、賃借人は借地借家法により保護されるケースが多く、オーナー側が賃借人に対して一方的に賃貸借契約を解除するためには、解除をするための「相当な理由」が認められる必要があります。
ここでは、立ち退き・明渡しを求める手続と、賃貸借契約を解除できる相当の理由について説明します。

立ち退き・明け渡しを求める手続

賃料の滞納等を理由として、賃貸人に立ち退き・明け渡しを求める場合、賃貸人である不動産オーナーが取るべき手続きについては、おおむね次のような流れになります。

第1ステップ:滞納賃料等の支払いの催告

賃料等の滞納を理由として賃貸借契約の解除を求める場合、原則として、まずは、滞納された賃料等の支払いを催告する必要があります。ここで注意すべき点として、賃貸借契約書に「賃料の支払いを1回でも遅滞したときは、何らの催告を要せず直ちに解除できる」という旨の条項(無催告解除特約)があり、その上で賃借人の署名押印があったとしても、契約解除をするためには原則として催告が必要とされています。

滞納賃料等の支払いの催告方法

そのため、「家賃・賃料滞納者への対応」で説明したように、まずは滞納賃料等の支払いを求めるケースにおける【第1ステップ:請求金額等の確定】のように、滞納されている賃料等の内容を確定させます。
その上で、【第2ステップ:滞納者に対する滞納賃料等の支払催告】と同じ方法で、滞納賃料等の支払催告を行なってください。
また、滞納者に保証人がいる場合には、【第3ステップ:保証人に対する滞納賃料等の支払催告】も併せてして下さい。

※上記の一連の流れの詳細は、「家賃・賃料滞納者への対応」を参照

なお、ここでのポイントとして、その後の賃貸借契約の解除の手続きをスムーズに進めるため、「期限までに滞納賃料等の支払いがない場合には解除する」という条件付の契約解除の通知を、催告を行なう書面に記載しておくといいでしょう(詳しくは後述の第2ステップにて説明します)。

滞納賃料等の支払い催告が不要な場合

賃料の滞納を理由とせず、例えば、オーナー側の承諾なく賃借人が借りた不動産を別の人に貸したこと等の他の理由で賃貸借契約を解除する場合には、契約解除のために滞納賃料等の支払催告をする必要はないとされています。
また、オーナー側と賃借人との間の信頼関係がすでに破壊されてしまっているといえる場合(例えば、一度口頭で滞納賃料等の支払いを請求したら賃借人が夜逃げしてしまった場合等)にも、もはや契約解除のために滞納賃料等の支払催告をする必要はありません。

第2ステップ:賃貸借契約解除の通知

滞納賃料等の支払いを催告した後もなお賃料等の支払いがない場合、賃貸借契約を解除することができるようになります。そこで、このような場合には、賃借人に対して、支払いの催告に続いて、賃料等の滞納を理由として契約を解除する旨の書面を内容証明郵便(および配達証明)で送りましょう。この書面が賃借人に到達した時点で、賃貸借契約が解除されます。

支払いの催告と解除の通知は兼ねることができる

ただ、この解除の通知に先行させた賃料支払催告の書面に、「【支払期限】以内に支払いがない場合には、改めて通知することなく本書をもって賃貸借契約を解除します」といった、支払期限までに請求した賃料の支払いがないことを条件に、賃貸借契約を(将来的に)解除する旨を記載することが可能です。
催告の書面にこのような記載がある場合には、この催告の書面で賃貸借契約解除の通知も同時に行われたと認められるので、改めて賃貸借契約解除の通知をする必要はありません。
そのため、賃料支払催告の書面を先に送る場合には、必ず条件付の契約解除の通知を記載するようにしましょう。

第3ステップ:立退き・明渡し請求(訴訟提起、強制執行等)

賃貸借契約の解除により、賃借人は不動産を利用する権利を失うので、オーナー側は賃借人に対し、不動産から立ち退いて明け渡すように請求することができるようになります(ここで改めて明け渡しを求める旨を通知する必要はありません)。
しかし、賃貸借契約の解除の通知を送ったにもかかわらず、賃借人が不動産から立ち退く動きを見せない場合もあります。
そのような時は、訴訟を提起して不動産を明け渡すよう請求する権利(および滞納している賃料等を支払うよう請求する権利等)を認める判決をもらった上で、強制執行手続により貸していた土地を更地にしたり、建物を空き家の状態に戻すことになります。
なお、この訴訟提起と強制執行の段階における手続きの流れについては、「家賃・賃料滞納者への対応」で説明した滞納賃料等の支払いを求めるケースにおける【第4ステップ:訴訟提起】および【第5ステップ:強制執行手続】と同様です。

※上記手続きの流れの詳細は、「家賃・賃料滞納者への対応」を参照。

立ち退き・明け渡しを求める上でのオーナー側の注意点

以上のとおり、賃借人に対して不動産の立ち退き・明け渡しを求める場合、かなり面倒な手続が必要となりますが、かといって、弁護士等に依頼する場合には、それなりの費用を要することになってしまいます。

意外にやりがちなオーナーによる自力救済

そこで、オーナー側が、訴訟の提起等をすることなく、①賃借人の留守中に賃借人の承諾なく貸した建物や部屋の鍵を勝手に交換してしまったり、②賃借人の留守中に賃借人の承諾なく不動産の中にある家財道具等を処分したり、勝手に外に運び出してしまうといったことをするケースも、時々見受けられます。
このように、オーナー側が、法律で認められた手続き以外で、自分の権利を勝手に実現させてしまうことを「自力救済」といいます。

【ポイント】 自力救済の典型例

①賃借人の留守中に賃借人の承諾なく貸した建物や部屋の鍵を勝手に交換してしまう

②賃借人の留守中に賃借人の承諾なく不動産の中にある家財道具等を処分してしまったり、勝手に外に運び出してしまう

自力救済は禁止されている

しかしながら、このようなことは絶対にやってはいけません。
なぜならば、現在の法律では、法律上認められた手続(この場合は、賃借人の承諾を得てこれらの立退作業を行う方法か、訴訟を提起して勝訴判決を得た上で強制執行手続により立退作業を行う方法のいずれか)以外の方法で権利を実現することは、違法行為だとされているからです。
たとえ、滞納された賃料の額が膨大であったり、賃借人の行為が刑法に抵触するような極めて悪質なものであったり、住居として部屋を借りた賃借人が長期間部屋を不在にしていてもはや引っ越したといえるような状態だという事情があったとしても、権利を行使するためには法律に従った手続を踏まなければならないのです。
仮に、オーナー側がこのような自力救済を行なった場合、オーナー側は、賃借人から自力救済により生じた慰謝料等の支払いを請求されてしまうことがあります。そのため、自力救済だけは絶対にしないよう注意してください。

賃貸借契約を解除できる相当の理由

しかし、賃料の滞納があるからと言って、すぐさま上記のような手続きを取って賃貸借契約を解除し、立ち退き・明け渡しを請求できるわけではありません。
そもそも、賃貸借契約の解除が認められるためには、解除をするのに「相当の理由があること」が必要となり、1か月分の賃料の支払いが数日遅れた程度では、この相当な理由は認められません。
では、どのような事情があれば、相当な理由があると言えるのでしょうか。

賃貸人と賃借人との間の信頼関係の破壊

この点について、実務においては、賃貸借契約における賃貸人(オーナー側)と賃借人との間の信頼関係が破壊されたといえる事情がある場合には、この事情が相当の理由となって賃貸借契約の解除を請求できるとされています。

賃料の滞納を理由として解除するケース

そのため、賃料の滞納を理由に賃貸借契約を解除する場合は、例えば、滞納された賃料が3か月分以上であり、さらに今後賃借人がこれを支払ってくれる見込みがないといった事情によって、すでに信頼関係の破壊があると説明する必要があります。
もっとも、滞納された賃料が1、2か月分でしかなくても、オーナー側が賃借人に対して賃料の支払いを求めたところ、賃借人が逆上して脅迫行為や暴行行為といった犯罪行為をして支払いを拒絶したというような事情があれば、信頼関係の破壊が認められる場合もあります。
結局のところ、事案における様々な具体的な事情を総合的に考慮して、「今回は信頼関係の破壊があるといえるか」が判断されることになります。

【知っておきたい!】 賃貸借契約の解除についての特別な条項がある場合

賃貸借契約において、「賃料の支払いが○か月分遅滞した場合は、本契約を解除できる」といった賃料の滞納を理由とする契約解除について特別の条項があった場合、これを根拠に契約を解除することは必ずしも認められるわけではありません。
ただ、この条項があったにもかかわらず○か月分の賃料を滞納したことが、信頼関係の破壊を根拠付ける有力な事情として扱われることは多々あります。ですので、○か月分の賃料の滞納について、契約解除の1つの基準として考えることは可能です。

賃料の滞納以外を理由として解除するケース

他方、賃料の滞納以外を理由として、賃貸借契約を解除したいとオーナーが考える代表的なケースとしては、次のような場合が想定されます。

【賃料滞納以外で解除を考えたくなる代表的なケース】

①無断転貸借

賃借人がオーナー側の承諾なく、借りた部屋を他人に貸した場合

②用法(遵守義務)違反

賃借人が居住目的で部屋を借りたが、しばらくして、オーナー側に知らせずに、例えば借りた部屋をもっぱら仕事場として使うようになり、この部屋で寝泊まりすることはなくなった場合

③建物無断改築

賃貸借契約で、「賃借人は、借りた建物のリフォームやリノベーション等の工事を、オーナー側の承諾なしではしない」と定めていたにもかかわらず、賃借人がオーナー側の承諾なく、借りた建物のリフォーム工事を行った場合

この①、②、③のケースにおけるそれぞれの事情(無断転貸借や用法違反など)は、いずれも法令または賃貸借契約の内容に違反する行為ですので、このような事情が認められるだけで賃貸人と賃借人との間の信頼関係は破壊されたと認められるケースが多くあります。
そのため、このような事情を理由に賃貸借契約を解除する場合には、このような事情があってもなお、例外的に信頼関係が破壊されたとまでは言えない特別な事情がないかさえ確認すれば、解除は認められます。

やむを得ない事情があること

また、やむを得ない事情があるといえる場合にも、解除について相当の理由が認められ、賃貸借契約の解除を請求することができる場合があります。
例えば、建物や部屋の賃借人において、法令や契約に違反する行為はおろか、賃料等の滞納すらない状況だとしても、借りた建物が老朽化により倒壊することが相当程度確実であるような場合は、オーナー側から賃貸借契約を解除することができます。
ただ、この場合、オーナー側は、建物が倒壊することが相当程度確実であるという事情を証明しなければならない上、この事情が認められるケースは珍しいため、実際にはこのような事情による解除を認めてもらえることは非常に少ないです。

定期借家契約であれば契約は更新されない

最後に、これは厳密にいうと契約解除の話ではありませんが、締結した建物の賃貸借契約が、オーナー側の承諾なく契約が更新(同じ条件で契約を締結し直すことをいいます)されない定期借家契約であった場合、オーナー側は、賃貸借の期間の満了を理由に無条件で立退き・明渡しを請求することができます。
なぜなら、期間の満了により賃貸借契約は自動的に終了し、賃借人が建物を使用、居住できる理由がなくなるからです。

通常の賃貸借契約では原則として更新される

なお、定期借家契約ではない通常の賃貸借契約では、特段の手続をせずに期間を満了しても自動的に契約更新したものと推定され、賃貸借契約は継続します。
また、オーナー側から契約更新を阻止するための手続である更新拒絶が認められるためには、「正当の事由」があることが必要となる場合がほとんどです。
そのため、通常の賃貸借契約では、期間が満了しても、この「正当の事由」がないとオーナー側から更新拒絶をすることすらできず、契約を更新せざるを得ない状況となります。
そこで、オーナーとしては、契約更新により建物を貸す期間が長期化することを避けたい場合は、入居の段階において、定期借家契約で契約を締結することも検討された方がよいでしょう。