不動産・賃貸オーナーの方へ

家賃・賃料滞納者への対応

家賃・賃料滞納者への対応

家賃や賃料を期限どおりに支払わない入居者(滞納者)がいた場合、この支払いが遅れた家賃・賃料を支払ってもらわなければなりません。ただ、オーナー側はこの点に加えて、①滞納者を追い出さずに今後も入居し続けてもらうか、②滞納者を追い出して賃貸借関係を打ち切るか、という2つの方針のどちらかを選択する必要があります。

【ポイント】 賃料滞納者との今後の関係をどうしたいか、その方針を決めましょう。

①滞納者を追い出さずに、今後もこのまま入居し続けてもらう

②滞納者を追い出して、賃貸借関係を打ち切りたい

賃貸借契約は、入居者が家賃・賃料を滞納したとしても、そのことから当然に効力を失うものではありません。
そのため、①すぐに新たな入居者を確保できそうにない等の理由で、滞納者にこのまま入居をし続けて欲しいのであれば、賃貸借契約をこのまま続けたうえで滞納した賃料等の支払いを求めることになります。
しかし、②滞納者は早く追い出したいと思うのであれば、滞納した賃料等の支払いを求めることとは別に、契約解除に向けた手順を踏む必要があります。
ここでは、滞納した賃料等の支払いを求める際の各手続について説明します。

※契約を解除して滞納者を追い出す場合の手続については、「立ち退き・明け渡し」を参照。

第1ステップ:請求金額等の確定

滞納されている賃料等の支払いを請求する場合、まずは、請求する賃料等の内容を確定させる必要があります。
なぜならば、オーナー側が賃料等の支払いを改めて請求する旨の連絡(これを支払催告といいます)をしたとしても、請求される側である滞納者にとって、請求された賃料等の具体的な内容(どの不動産の賃料なのか、いつの賃料なのか、いくら支払えばよいのか等)がわからない場合には、法律上は有効な支払催告と認められないことがあるからです。
そのため、オーナー側としては、支払催告をする前に、時系列におけるどの部分の賃料等が滞納されているのかを確認する必要があります。つまり、具体的には、滞納されている賃料は何年何月分の賃料等なのか、さらに、滞納者が支払うべき賃料等の総額はいくらなのかについては、少なくとも確定させた方がよいでしょう。

滞納賃料の計算方法

滞納された賃料等を計算する方法としては、まず、①現時点で何年何月分までの賃料等が発生しているのかと、②滞納者から最後に支払われた賃料等は何年何月分のものか、を確定させます。そうすると、②の翌月から、①の月の分までの賃料等が滞納されていると、判断できます。
ここでの注意点としては、どこかの時期で、1か月分の賃料の金額に満たない支払いがあった場合、その金額については請求する金額から差し引かなければならないこともあります。そのため、このような支払いがあった場合は、この支払いがどういう名目でなされたものなのかを確認する必要があります(例えば、何年何月の賃料の一部として、など)。

第2ステップ:滞納者に対する滞納賃料等の支払催告

支払いを請求する滞納賃料等の金額や内容が確定したら、次は滞納者に対してその滞納賃料等を支払うよう催告します。
この支払催告は、オーナー側が滞納賃料等の支払いを改めて請求する旨の連絡が滞納者に届けばよいので、対面して伝える方法や電話で伝える方法、電子メールやLINE等で伝える方法、手紙で伝える方法等のいずれであっても、法律上は有効とされています。

内容証明郵便での支払催告がベスト

しかし、万が一、滞納賃料等の支払いについて、今後に訴訟手続等で解決することになった場合、「オーナー側が支払催告をして滞納者はその連絡を受け取った」という事実について、オーナー側が証明しなければならないことがあります。
その際には、口頭や電話で滞納者に伝えていただけでは、紙などの客観的な証拠が残らないので、支払催告をしたことを証明できない場合が多々あります。
そのため、支払催告をする時は、滞納賃料等の支払を請求する旨を記載した書面を郵送する方法をとるとよいです。そして、さらに通常の普通郵便によるのではなく、どんな内容の書面を郵送したのかを証明できる「内容証明郵便」に、その郵送物がいつ宛先に届いたかを証明できる「配達証明」サービスを追加する方法がベストです。
内容証明郵便や配達証明の具体的な利用方法については、郵便局への問い合わせや、郵便局のホームページにて確認できます。
なお、支払催告の書面には、第1ステップで確認した滞納賃料等の金額や内容を記載することはもちろんですが、滞納賃料等の支払期限も併せて書くとよいでしょう。

第3ステップ:保証人に対する滞納賃料等の支払催告

滞納者に保証人がいた場合には、滞納者が支払わない賃料等の支払いを保証人に請求することもできます。滞納者本人に滞納賃料等の支払催告をしたにもかかわらず期限までに支払いがない場合は、保証人に対しても滞納者と同様に支払催告をしましょう。
滞納者に保証人がいない場合には、このステップについては不要です。

第4ステップ:訴訟提起

滞納者や保証人に滞納賃料等の支払催告をしても、期限内に支払ってもらえなかったのであれば、裁判所の手続を経ずにこの滞納問題を解決することは困難といえます。
そのため、滞納賃料等の回収を目指すのであれば、強制的に回収するための手続をとることになります。この強制的に回収するための手続を強制執行手続といいますが、この手続を利用するためには、まず、裁判所から、オーナー側に滞納者から滞納賃料等を支払ってもらう権利があることを認めてもらう必要があります。そのための手続が訴訟であり、これが一般的に裁判と呼ばれるものです。
この訴訟を提起する際に、注意しなければならない手続上の問題は色々ありますが、基本的なものは以下の3点です。

地方裁判所と簡易裁判所のどちらに訴訟提起するのか

裁判所にはいくつか種類がありますが、賃料の滞納問題で訴訟提起する場合に取り扱ってくれる裁判所としては、地方裁判所と簡易裁判所が考えられます。
では、実際に賃料が滞納され、訴訟を起こしたいと思った時は、どちらの裁判所に訴訟を提起すればいいのでしょうか。
この点について、どちらの裁判所に訴訟提起をするのかは、基本的には、オーナー側が請求する滞納賃料等の総額によって決まります(この請求する金額の総額のことを「訴額」といいます)。訴額が140万円を上回る場合は地方裁判所に訴訟提起しなければなりませんが、訴額が140万円以下であれば簡易裁判所に訴訟提起することができます。
なお、訴額が140万円以下である場合にも地方裁判所に訴訟提起することができます。しかし、地方裁判所よりも簡易裁判所の方が数が多く、より近い場所にあることが多いことや、地方裁判所の方が取り扱う事件数が多い傾向にありスケジュールが後回しにされやすいこと等から、簡易裁判所に訴訟提起できる場合は、簡易裁判所ですることをおすすめします。

どの地方裁判所(または簡易裁判所)に訴訟提起するのか

また、訴訟提起は、全国の裁判所の中から好きな裁判所を選べるわけではなく、訴訟で請求する権利の種類や内容から、どこの裁判所で提起するのかが決まります。
今回のような賃貸借契約に基づく未払賃料の支払請求事件の場合、訴訟提起をする裁判所は、請求する側(オーナー側。裁判では「原告」と言われる人です)の住所地を管轄する裁判所か、賃貸している不動産の所在地を管轄する裁判所となるのが原則です。そのため、オーナー側としては、自分の住所地から最も近い裁判所に訴訟提起するか、あえて不動産のある場所に近い裁判所に訴訟提起するかを選ぶことになります。
弁護士に依頼する場合を除き、訴訟の期日には原則として出席しなければなりませんので、オーナー側にとって都合のいい場所の裁判所を選択するとよいでしょう。

誰に対して訴訟提起するか

滞納賃料等の支払いについて、滞納者本人に対して請求するのはもちろんですが、保証人がいる場合は必ず保証人にも請求するようにしてください。
訴訟では、(条件はありますが)1つの手続で複数人に対して請求することができるので、滞納者本人と保証人の双方を被告として訴訟提起しましょう。仮に、保証人がいるにもかかわらず滞納者本人しか被告にせず、後述の強制執行でも滞納賃料等を全額回収できなかった場合、保証人に対して改めて訴訟提起をしなければならなくなってしまいます。
保証人を被告に加えたとしても、議論する点は基本的に増えることはないと考えられるので、この段階で滞納者と保証人を被告として訴訟提起すると効率がよいです。

第5ステップ:強制執行手続

訴訟での判決により、滞納者や保証人に対して滞納賃料等の支払いを請求する権利が認められた後、滞納者が観念して支払うようになるケースもあります。ただ、ここまできても滞納者が支払ってくれない場合は、いよいよ強制執行手続により滞納者等の財産を差し押さえ、その財産から滞納賃料等を回収する必要があります。

何を差し押さえることができるの?

賃借人に賃料の未払金を請求している場合に、強制執行手続により差押えをする財産として考えられるのは、主に不動産と預貯金、そして給料です。
不動産に対して強制執行手続をとる場合、不動産は差押えた上で競売にかけられ、その売上金の一部から滞納賃料等を回収することができます。
預貯金や給料に対して強制執行手続をとる場合、これらの債権を差押え、ここから直接に滞納賃料等を回収することになります(ただし、給料の場合は、1か月の給料のうち、いわゆる手取額の4分の1しか回収できません。ですので、判決で認められた金額によっては、数カ月に渡って回収し続けることになる場合もあります)。

差し押さえるべき財産は自分で見つけなければいけません

ただし、どの強制執行手続をとるとしても、対象となる滞納者等の財産については、オーナー側でこれを見つけ、裁判所に伝えなければなりません。
最近の民事執行法改正により、2020年4月から新制度が始まり、滞納者等の財産を探す手段は増えましたが、いずれにしろオーナー側が積極的に動く必要があります。
このように、財産調査を行わなければならないことに加え、さらに強制執行手続の申立てにおいても複雑な手順を踏まなければならないことなどを考えると、このステップにおいては弁護士に依頼することをおすすめします。