初めての相続・遺言

遺言書の準備

遺言書の準備

自分の財産の帰属を決める方法」にもあるように、相続の時に自分の財産に対して自らの意思を反映させるためには、遺言による方法を用いるのが一般的です。
しかし、遺言は、その作成の方式や要件が法律できちっと決まっているので、しっかりと下準備をした上で書き始めなければミスをしてしまい、最悪の場合、せっかく遺言書を作成しても本人の意思が相続に反映されない恐れがあります。
では、遺言の内容を決め遺言書を作成するにあたっては、実際にはどのようなことから始めればいいのでしょうか。

遺言書を作成する前にすべきこと

スムーズにミスのない遺言書を作成するためには、いきなり遺言書を書き始めるのではなく、遺言書を作成する前にまず準備しなければならないことがあります。それは、「誰が相続人なのか」と「財産がどれだけあるのか」を調べることと、「どのような遺言を残すか」と「どの遺言形式にするか」を決定することです。これらについてしっかりと調査し、決定してから実際の遺言を作成すると、完成度の高い遺言書を作れる可能性が上がります。

相続人の調査

まず最初に、自分が亡くなった場合、誰が相続人になるのかを調べる必要があります。相続人となる人に漏れがある場合、相続時の遺産分割の場面や後述する遺留分との関係で、トラブルが多く発生します。誰が相続人になるのかについては、家族構成によって異なりますが、全て民法に規定されています。

ただ、ここで注意しなければならないのが、遺留分についてです。相続人となる人については、遺留分というものが認められていて、これは、「遺産の中から最低限これだけの割合をもらえます」という保証のようなものです。相続では遺言によって本人の意思が尊重されるといっても、この遺留分を侵害することは認められていません。

相続財産の調査と評価

次に、自分の財産がどれだけあるのかを調べ、また、それぞれの財産の評価額がいくらなのかを計算する必要があります。相続の際に、遺言の中に書かれていない財産が見つかった場合、その財産についてだけ遺産分割が別途必要となりますので、相続人の負担になりますし、何よりその財産については本人の意思が反映されなくなっていまいます。

遺言の内容を決定する

続いて、自分がどのような遺言を残したいかを考え、決定します。
遺言の内容として、一番重要になる点は、やはり財産を誰にどのように分けるかについてです。先程の手順で明らかになった相続人に対し、どの財産をどれだけの割合で分配するのかを、自身の気持ちや価値観と向き合い、とことん考えた上で決めましょう。

なお、遺言には、財産の分配について等だけでなく、ご自分の気持ちなども併せて書くことができます。これを付言事項といいます。付言事項には、法的な拘束力はありませんが、ご家族への感謝やなぜ財産をそのような分配に決めたのかなど、ご自身の気持ちを書き記すことができます。やはり、財産の分配の理由や相続人への今までの感謝の言葉があるだけでも、相続人としては遺言の内容を納得し受け入れやすくなるものです。相続人に自分の意思を汲んでもらうためにも、付記事項にもついても何を書くか決めておきましょう。

どの方式の遺言にするか決める

最後に、どの種類の遺言を選んで作成するかを決めます。
そもそも、遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言という3つの種類があります。この中から、自分はどの方式の遺言にするかを選び、その遺言作成のルールに従って作成することになります。
それでは、この3つの遺言について、それぞれの特徴を見ていきましょう。

自筆証書遺言

自筆証書遺言とは、自分で手書きにより作成する遺言のことをいいます。紙とペンと印鑑があればできますので、遺言の中で一番手軽にできるものであり、実務上も最も利用されています。
なお、今までは作成した自筆証書遺言は、自宅で各自が保管する必要がありましたが、法改正により、法務局で保管を頼むこともできるようになります(2020年7月10日に施行)。これにより、紛失・改ざんの可能性がなくなりますので、自筆証書遺言の有用性が上がるといえます。

自筆証書遺言についてはミスが怖い

ただ、自筆証書遺言は、守らなければならないルールが法律でしっかりと決まっているので、それを守らないと遺言自体が無効となってしまいます。例えば、財産目録以外については、全て手書きで書かなければならないとされているので、パソコンで書くことは認められません。
自筆証書遺言は、簡単に作ることができる反面、せっかく遺言を作っても相続時に最ももめてしまう可能性が高いものですので、注意が必要です。

※自筆証書遺言で守らなければならないルールについて、詳しくは「遺言でもめている場合」を参照。

自筆証書遺言のメリット

  • 最も手軽
  • 費用がかからない

自筆証書遺言のデメリット

  • ミスがあると無効になる可能性がある
  • 遺言を自分で保管しなければならない(2020年7月10日以降は法務局での保管も可能)
  • いざ相続の際に、相続人が遺言を見つけられない可能性がある(2020年7月10日以降、法務局での保管にしている場合には問い合わせる)
  • 遺言の開封時の検認が必要(2020年7月10日以降、法務局での保管にしている場合は不要)

公正証書遺言

公正証書遺言とは、公証役場にて公証人に作成してもらう遺言のことをいいます。公証人が、遺言者からどのような遺言内容にしたいかを面と向かって聞き取り、その場で遺言を作成してくれます。作成してもらった遺言は、そのまま公証役場で保管されるので、紛失・改ざんの心配はありません。また、プロである公証人が作成してくれますので、内容に不備があり無効になるということは通常ではあり得ません。
作成するのに費用がかかってしまうのが難点ですが、遺言はミスが許されないものですので、特別な事情がない限りは、この公正証書遺言で作成されることをおすすめします。

公正証書遺言のメリット

  • 公証人が作成するので、ミスの恐れがない
  • 公証役場で保管されるので、紛失・改ざんのおそれもない
  • 遺言の開封時の検認が不要

公正証書遺言のデメリット

  • 費用がかかる
  • 公証役場まで行く手間がかかる
  • 証人2名の立ち会いが必要になる

秘密証書遺言

秘密証書遺言とは、遺言の内容は確認せずに秘密にしたまま、遺言があることだけは公証人に確認してもらう形式の遺言のことをいいます。
ただ、メリットとデメリットのバランスが悪く、実務上はほとんど利用されていません。

秘密証書遺言のメリット

  • 内容を完全に秘密にできる

秘密証書遺言のデメリット

  • 多少の費用がかかる
  • 内容の確認は行われないので、争いが起こりうる記述があってもチェックできない
  • 遺言を自分で保管しなければならない
  • 証人2名の立ち会いが必要になる
  • 遺言開封時に検認が必要

【知っておきたい!】

家族が亡くなって遺言書が出てきた場合、絶対に勝手に開けてはいけません。
遺言を開封するためには、家庭裁判所において、検認という手続きが必要になります。検認を行わなかった場合には、遺言自体が無効になってしまうことはありませんが、過料を課せられる場合があります。
もっとも、公正証書遺言の場合には、この検認手続は不要です。