成人年齢の引き下げについて

成人年齢の引き下げについて

以前から話題になっていましたが、成人年齢を20歳から18歳に引き下げる改正民法が、6月13日の参議院本会議で可決され成立しました。

これにより、この改正民法が施行される2022年4月1日から、民法上は18歳以上の人は成人として扱われることになります。成人の年齢が変わるのは、明治9年(1876年)以来、約140年ぶりだそうです。

では、今回の成人年齢引き下げにより、私達の生活にどのような影響が出るのでしょうか。既に成人である方も、未成年の家族にとって関係のある話ですので、本コラムに目を通してくださると幸いです。

(1)まず、民法上、成人になると、契約締結等の法律行為を自分の意思だけで有効に行うことができます。未成年者が法律行為を行う場合、その法定代理人(親権者であることが通常です)の同意を得なければ、行為後に取り消すことができます(民法5条1項、2項)。そのため、未成年者がマンションの賃貸やクレジットカード等の契約を締結しようとした場合、多くのケースで親権者の同意を要求されていました。すると、これまでは、20歳未満で実家から離れた大学に入学し、一人暮らしをするためのマンションを契約しようとする場合、実家で親の同意書を書いてもらった上で大学近くの不動産屋に持参して契約を締結しなければならないケースが有りました。これが、18歳以上が成人となることで、(飛び級の人を除いて)ほとんどの大学生は、自分の意思で、マンションの賃貸借契約を締結したり、自分名義のクレジットカードを作れるようになります。

もちろん、こういった契約を自分1人で締結できるようになれば、契約により不利益を被る可能性も大きくなるという側面もあります。今までは、18歳の人が誤って、いわゆる悪質商法に手を出してしまったとしても、その子が未成年者であることを理由に、その契約を取り消すことができたケースも多々有りましたが、成人年齢が引き下げられれば、この方法で契約を取り消すことはできなくなり、その不利益を被らなければならない可能性が生じることになります。ニュース等によれば、いわゆる消費者契約に関しては、20歳未満であれば取り消し得るように消費者契約法を改正する動きがあるようですが、だからといって安心してよい話ではありません。

(2)なお、今回の民法改正で一緒に改正されたことから、成人年齢の引下げが影響していると思われているようですが、女性が結婚できる年齢(現民法731条)が、16歳から18歳に引き上げられたことは、成人年齢の引下げと直接的な関係はありません。この女性の結婚可能年齢引上げは、男女平等の観点から、男性の結婚可能年齢と同じにするために定められたものだと思われます。

第二に、今回の民法改正により引き下げられる成人の年齢は、あくまでも民法における成人です。そのため、年齢制限を「満20歳」と定めている飲酒、喫煙等や、年齢制限を「未成年者」と定めていますがギャンブル依存症等を考慮し未成年者を20歳未満の者と解釈する競馬、競輪等の公営ギャンブルについては、2022年4月1日以降も、18歳から19歳の人はすることを禁じられています。

また、「少年」が犯罪を犯した場合に適用される少年法ですが、この「少年」は「20歳に満たない者」、「成人」は「満20歳以上の者」と定められています(少年法2条1項)ので、改正民法が施行された後も20歳未満の者が犯罪を犯せば、民法上の成人であったとしても、少年事件になる可能性があります。ただ、昨今、少年法上の「少年」の年齢を引き下げることを求める世論が強くなっていますので、今後、「少年」の年齢が引下げられる可能性は十分あり得ると思います。

以上のとおり、今回の民法上の成人年齢引下げにより、変わることもあれば変わらないものもありますが、18歳から19歳の人に対する、社会の一員としての立ち居振舞いがより強く求められることになることは確実です。

2022年4月1日の時点で18歳から19歳となる人には、成人になったからといって羽目を外しすぎないように、成人となったことを噛み締めて、社会の一員として恥ずかしくない行動をした上で、他の成人に負けないように活躍してくれることを願います。