責任能力のない子供などが人に怪我を負わせたときの親の責任について

責任能力のない子供などが人に怪我を負わせたときの親の責任について

今回は責任能力のない(法律上責任を負わない)子どもが他人に損害を与えた場合、その監督義務者である親権者(父母)はどのような責任を負うのか、最近の判例とともにご説明します。

1.監督義務者の責任とは

民法上、責任能力のない者が責任能力欠如を理由として不法行為責任を負わない場合、その者の法定監護義務者がその損害を賠償する責任を負います(民法714条1項)。

責任能力とは自身の行為の是非を判断する能力をいい、個々の事例における判断により決定されるもので、一律な年齢は定められませんが、裁判例の動向を見て みますと、おおむね12〜13歳程度以上であれば責任が認められています。もっとも、子供が責任能力を有していたとしても、監護義務者の義務違反と被害者 の損害との間に相当因果関係が認められると直接の不法行為責任(民法709条)を負うことがあります(最判昭和49年3月22日)。

2.監督義務者の免責規定

この714条1項の監督義務者の責任は、同規定の但書によって、監督義務者がその監督義務を怠らなかったとき、あるいは監督義務を怠らなくても損害が生じたであろう場合には責任を免れることができます。

ただ、この規定により免責されるためには、監護義務者側が監護義務を怠らなかったことを立証する必要があり、また監護義務の内容が定義付けられていないこ ともあり、実際上この規定により免責を認められることは困難でした。したがって、責任能力がないたとえば幼稚園児の子供が遊んでいて第三者に損害を与えて しまった場合、親はその被害者に対して損害賠償の責任を免れ得ないという事態がしばしば見受けられました。

しかし、最新判例においてこの免責を認める判例が登場したのでご紹介します。

最高裁平成27年4月9日判決の事案は、自動二輪者を運転して小学校の校庭横道路を進行していたV(当時85歳)が、その校庭から転がり出てきたX(当 時11歳)の蹴ったサッカーボールを避けようとして転倒して負傷し、その後死亡したことにつき、Vの遺族である相続人が、Xの父母に対して714条1項に 基づき損害賠償を請求した事案です。

この事案において、この最高裁判例は、714条1項但書の適用に関し、ゴールに向けたフリーキックの練習は通常人身に危険が及ぶような行為であるとは いえず、このような通常人身に危険が及ぶものとはみられない行為によってたまたま人身に損害を生じさせた場合には、子に対する監督義務を尽くしていなかっ たとすべきではないとしてXの父母の賠償責任を否定する結論を出し、各種メディアに大々的に取り上げられました。

それは、上記のとおり、これまではこのような事案において、Xの父母の責任が認められてしまうことが多く、それだけ幼い子供を抱えている親としては悩 ましいところだったということです。この最高裁判決によって、幼い子供さんを抱えてみえるお父さんお母さんにおいては、ほっとする結論ではなかったでしょ うか。

ただ、ここで注意しなければならないのは、本判決はあくまで当該事案においての判決であって、必ずしも一般的に714条但書の適用範囲を広げたわけではない、ということです。

本判決の理由を詳しく見てみますと、「満11歳の男子児童であるXが本件ゴールに向けてサッカーボールを蹴ったことは、ボールが本件道路に転がり出る 可能性があり、本件道路を通行する第三者との関係では危険性を有する行為であった」とは述べるものの、「本件ゴールにはゴールネットが張られ、その後方 10mの場所に南門およびネットフェンス(1.2m)が設置され、これらと本件道路には幅約1.8mの側道があった」との事実を認定し、このような状況を 前提に、結論として当該事案における少年Xがサッカーゴールに向かってフリーキックの練習のためサッカーボールを蹴った行為は「通常は人身に危険が及ぶ行 為であるとはいえない」、「本件では特別の事情があったとは伺われない」としているのです。つまり、この判決は、714条但書の適用を認めたというより、 そもそも少年Xの過失それ自体を否定する事情として考慮できるものでもあります。したがって、一般的に714条但書がその適用範囲を広げたと解釈するのに はいささか早計であると考えられます。

また、本件の場合、被害者となったVさんとしてはそもそも道路に向かってサッカーゴールを設置した学校側の責任を追求すれば、その請求が認められたかもしれないと思われます。

もっとも、この判例は親権者の子に対する監護義務として「責任のない未成年者の親権者は、その直接的な監視下にない子の行動について人身に危険が及ば ないよう注意して行動するよう日頃から指導監督する義務がある」と、714条の親権者の子に対する監督義務の内容を明らかにした点に意義があります。従来 はこの義務があいまいであったこともあり、監督義務者の責任が一般的に幅広く認められがちでありましたが、本判決で最高裁として義務内容を明示したことか ら、ある程度の制限が設けられることが期待できます。また、今後様々な関係における監護義務の内容等、さらなる判決の積み重ねが待たれるところです。

3.では、監護義務者としての親はどのような対策をしておくべきでしょうか。

監督義務者は万が一子どもや認知症の高齢者が事故を引き起こした場合に備えて、「個人賠償責任保険」等に加入しておくのが安心です。

先ほどの子どもが引き起こす事故については日頃の指導監督によってある程度予防できるとしても、認知症の高齢者が引き起こす事故はどれほど気を付けていても完全に防ぐことは困難と言わざるを得ません。この機会に、一度ご自分、またはご家族の加入保険を確認しておくことをお勧めします。