相続法の改正 遺留分制度

相続法の改正 遺留分制度

【ケース】

父が亡くなり、相続人は母と私と弟の3人です。父の遺産は土地(評価額3000万円)と預金1000万円です。
ところが、父が遺言を残していたことがわかり、そこには土地をA団体に寄付すると書かれていました。私は、父からどれだけの財産を相続できるのでしょうか?

このコラムでは、相続法の約40年ぶりの改正により、大きく変わった制度の一つである「遺留分」について解説します。

1 遺留分ってなに?

財産をどのように処分するかは、その持ち主の自由です。
好きな人に自分の財産をプレゼントしようとして、それを他人が止めることは許されないでしょう。
これは、亡くなった人についても同様です。

亡くなった人は、遺言等によって、自分の財産を好きなように処分できます。これが日本の法律の原則です。

しかし、この原則を貫くと、例えば、亡くなった人は財産を持っているのに、遺族はほとんど持っていないというような場合に、亡くなった人の財産が遺言によって全くの他人に贈与されてしまうと、遺族は路頭に迷うことになりかねません。
また、亡くなった人の財産は、その人だけの財産というよりも、遺族の助けによって築かれた財産ということもできるでしょう。

このように、亡くなった人が財産を自由に処分できるという原則を貫くと、不都合が生じることがあるため、法律によって、亡くなった人が自由に処分できる財産の範囲に一定の制限を加え、遺族が望めば、その制限された部分(遺留分)を取得できるようにしました。これが、「遺留分」制度です。

遺留分を取得できる人は、法律で定められた一定の範囲の遺族(配偶者と子または直系尊属に限られ、兄弟姉妹は含まれません)です。

また、遺留分として認められる額は、遺留分を取得できる人全員分を合わせて、亡くなった人の財産の2分の1(直系尊属のみが相続する場合は3分の1)です。(その上で、各々の法定相続分に応じて、さらに分けられることになります。)

そして、亡くなった人による財産の処分が、遺留分を侵害する場合、すなわち、残された財産のみでは遺留分の額に満たない場合に、遺留分を持つ人は、その処分を受けた人に対して、遺留分が侵害された範囲でその財産を返還するように請求できます(これを「遺留分減殺請求」といいます)。

この際、改正前においては、請求を受けた側は、原則現物を返還しなければならず(「原則現物返還」)、代わりに遺留分の侵害額に応じた価格を弁償することも可能とされてきました。

2 具体的には?(改正前)

上に挙げた例では、父の遺産は、土地(評価額3000万円)と預金1000万円を合計した4000万円で、遺留分はこれを2分の1した2000万円となります。このうち、母は1000万円、私と弟で500万円ずつが遺留分として保障されています。

そうすると、先ず残された預金1000万円について、母500万円、私と弟で250万円ずつに分けます。

そして、残りの遺留分は、母が500万円、私と弟で250万円ずつですから、A団体への土地の寄付は、この金額の限りで遺留分の侵害となります。

そこで、A団体に対して遺留分減殺請求を行い、その結果、父が寄付した土地について、母が6分の1(3000万分の500万)の持分、私と弟がそれぞれ12分の1(3000万分の250万円)の持分を持つことになり、一つの土地を、A団体と私たちで共有する事になります。これが、改正前の遺留分制度です。

3 どうして遺留分制度が改正されるの?

さて、ここでお気づきの方もいるかもしれませんが、遺族以外の人にわたってしまった財産について、遺留分が認められ、その一部の返還を求めることができるとしても、分割が難しい財産の場合には、他人との共有にならざるをえず、その利用や処分に支障を来すことになってしまいます。

この問題は、例えば、事業者が事業承継させるため後継者に株式や不動産等の事業財産を譲渡しても、遺留分制度のために、後継者以外の人と事業財産の共有状態が生じ事業承継に支障が出るとして、かねてより問題視されてきました。

今回の改正では、この問題が解決されたのです。

4 改正のポイント〜「原則現物返還」から「金銭による返還」へ〜

それでは、今回の改正により、遺留分制度はどのように変わったのでしょうか?

最大の変更点は、これまでの「原則現物返還」から「金銭による返還」に変わったことです。

改正前は、遺留分減殺請求の効果として、「原則現物返還」、例外的に請求を受けた側の選択により価格弁償ができるとされていました。

しかし、上記のような問題点があるため、返還について、「原則現物返還」から、「金銭による返還」に変わりました。
その物を返せという請求ではなく、遺留分の侵害額に相当する金銭を支払えという請求に変わったのです(「遺留分減殺請求」から「遺留分侵害額請求」へ)。

この変更を、先の例にあてはめると、父がA団体に寄付した土地について、母と私と弟は、A団体と土地を共有するのではなく、A団体に対して、母は500万円、私と弟は250万円ずつ、各々お金で支払うように請求することになります。

そして、この変更に伴い、請求を受けた側もすぐにお金を用意できないという問題が生じうるため、裁判所に対する請求により、相当の期間支払いを猶予してもらうことが可能となりました(裁判所に対する相当期限許与の請求)。

5 まとめ

相続法の改正により、遺留分制度も大きく変わりました。その基本的な枠組みは、「現物返還」から「金銭による返還」への変更ですが、他にも細かな変更がありますので、遺留分でお困りの際は、お気軽に当事務所にご相談ください。