代襲相続と特別受益

代襲相続と特別受益

代襲相続と特別受益との関係

相続開始以前に、推定相続人である子や兄弟姉妹が既に死亡していた場合や廃除・相続欠格により相続権を失った場合に、その推定相続人の子が、その推定相続人の相続分を相続します。これを代襲相続といいます。代襲相続について詳しくは過去のコラムをご参照ください。

今回は、代襲相続の際に、被代襲者が被相続人から贈与を受けていた場合についてご説明します。

相続が開始する以前に、被相続人からお金や不動産の贈与を受けていた場合、民法は、これを特別受益として相続人の遺産に加えて遺産分割をすることを規定しています。

それでは、被代襲者がその生前、被相続人からお金や不動産等の贈与を受けていた場合等していた場合、相続が開始し遺産分割を行う際に、代襲相続人はこのような贈与について持戻義務を負うのでしょうか。

民法は、「共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、前三条の規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする」と規定しています(民法903条1項)。

このように民法は、「共同相続人」の中に、被相続人から贈与等を受けた者がある場合にその贈与の価額を相続財産とみなすと規定していることから、相続開始時点で既に死亡している被代襲者は相続人に当たらず、したがって被代襲者が相続人から生前受けた贈与について、代襲相続人は持戻義務を負わないとする考え方があります。

他方で、被代襲者が贈与を受けた時点では、被代襲者は推定相続人であり、代襲相続人は被代襲者の地位をそのまま引き継ぐため、被代襲者が受けた贈与について代襲相続人は持戻義務を負うとの考え方があります。

実務上は、後者の考え方が有力であり、東京地裁平成24年11月26日判決も代襲相続の場合に、被代襲者が被相続人から特別受益を受けたときは、代襲相続人はその受益額を相続財産に持ち戻さなければならない旨判示しています。

もっとも、被代襲者に対する生前の贈与について、それを被代襲者自身が生前消費してしまった場合など、代襲相続人は直接の経済的利益を受けていない場合もあります。このような場合でも、被代襲者が受けた贈与について全て代襲相続人が持戻義務を負うとすれば代襲相続人にとって酷な結果となります。

そのため、過去の審判例では、代襲相続人が被代襲者を通して被代襲者が被相続人から受けた贈与によって現実に経済的利益を受けている場合にかぎりその限度で特別受益に該当し、この場合には代襲者に被代襲者の受益を持ち戻させるべきであり、外国留学の費用は被代襲者の一身専属的性格のもので、代襲相続人はそれによる直接的利益を何ら受けていないことから、代襲相続人の持戻義務を否定したものや(徳島家裁昭和52年3月14日審判)、特別の高等教育を受けたことに関する特別受益について、一身専属的性格のものであることを理由に、代襲相続人の持戻義務を否定したもの(鹿児島家裁昭和44年6月25日審判)があります。

このように、被代襲者が生前相続人から贈与を受けた場合、代襲相続人が持戻義務を負うか否かは、その贈与が被代襲者に一身専属的な性格をもつものであったかどうか、現実に代襲相続人が経済的利益を受けているかという点が考慮されることになるものと考えられます。