相続放棄と祭祀承継

相続放棄と祭祀承継

法律相談において、相続人の方から「被相続人(亡くなられた方)には不動産や預金等の財産が無く、多額の借金しかないので相続放棄をしようと考えているが、相続放棄をするとお墓や仏壇等を承継していくこともできなくなるのか」という内容の相談を受けることがあります。

そこで、今回は、相続放棄とお墓・仏壇等(これらを「祭祀財産」といいます)の承継との関係について説明したいと思います。まず、相続放棄とは、相続人が、被相続人が亡くなったことにより自らに生じた相続の効果(権利や義務を包括的に承継するというもの)を、被相続人が亡くなった時点に戻って消滅させようとする行為のことです。

そして、相続放棄をした人は、放棄により、相続開始の時に相続人として存在しなかったと扱われることになるので、被相続人のプラス財産・マイナス財産ともに承継しないことになります。なお、相続放棄を行うためには、相続の開始があったことを知った時から3カ月以内に、家庭裁判所へ申し出なければなりません(相続放棄の期間制限に関する問題については、コラム「3ヶ月経過後の相続放棄」を参照してください)。

次に、祭祀財産とは、系譜(祖先以来の系統(家系)を表示するもの)や、祭具(祖先の祭祀、礼拝のために用いるもの)、墳墓(遺体や遺骨を葬っている設備)のことをいいます。そのため、祭祀財産には、お墓や仏壇だけでなく家系図等も含まれます。 そして、この祭祀財産は、一般の相続財産から区別されており、相続とは全く無関係に別個の方法で承継されていくことになっています。

そのため、相続放棄をして相続財産を承継しない人であっても、祭祀財産を承継することは差し支えありません。したがって、相続放棄をしたとしても、お墓や仏壇等を承継していくことは可能です。

なお、祭祀財産の承継者については、その決定方法が民法第897条に定められており、第1には被相続人が指定した者とされ、その者がいない場合には慣習に従って決めることになっていますが、その慣習が明らかでない場合は家庭裁判所が指定する者となっています。しかしながら、実際は、関係者間の合意で承継者が決められることが多いです。