会社成立前の発起人の行為について

会社成立前の発起人の行為について

1 はじめに

今回のコラムでは、会社が成立する前に、その発起人が、会社の代表者として締結した契約等が、成立後の会社との間でも有効となるかという問題についてお話したいと思います。会社成立前の契約であっても、成立後の会社との間で有効ということであれば、成立後の会社に対して、当該契約で定めた代金等を請求することができます。仮に、成立前の契約は設立後の会社との間では無効ということであれば、会社に対して代金等を請求することができなくなりますが、全く救済されないのでしょうか。今回は、このような問題についてお話したいと思います。

2 会社の成立について

そもそも、会社はいつ成立するのでしょうか。この問題については、会社法が明確に規定しています。会社法49条によれば、「株式会社は、その本店所在地において設立の登記をすることによって成立する。」とされています。つまり、会社(株式会社だけでなく、合名会社や、その他の法人も含め)は、設立の登記によって成立し、したがって、会社の成立後と成立前を分けるのは、当該会社が設立の登記をしているかどうかということになります。したがって、契約を締結しようとしている会社の登記をあらかじめ取得していれば、その会社が実は成立していなかったという問題は生じないことになります(会社の登記は、商号及び本店所在地が分かれば法務局で誰でも取得できます)。

3 会社成立前の契約の有効性

とはいえ、契約を締結する際に、あらかじめ法務局で相手会社の登記を取得する会社は稀だと思います。そのため、成立前の会社と契約を締結してしまったという事態が生じる可能性はあります。その場合、成立後の会社に契約の有効性を主張できるのでしょうか。

この点について、判例は、「会社設立自体に必要な行為のほかは、発起人において開業準備行為といえどもこれをなしえず、ただ原始定款に記載されその他厳重な法定要件を充たした財産引受のみが例外的に許される」と判示しています。この内容について少しご説明します。

まず、「会社設立自体に必要な行為」は、成立後の会社との関係でも有効であると判示されています。「会社設立自体に必要な行為」とは、例えば、定款の作成や設立の登記手続を指します。これらにも当然費用がかかるのですが、万が一、発起人がこれらの費用を支払わずに会社が成立してしまった場合、例えば、定款の作成費用を発起人が司法書士に支払わないまま会社が成立した場合、その司法書士は、発起人ではなく、会社に対して費用の支払いを請求することになります。

次に、上記判例は、「開業準備行為」は会社との関係では無効であると判示しています。「開業準備行為」とは、成立後に予定する事業を円滑に開始するための準備行為を指します。例えば、会社の成立前に、会社の事業のための従業員を雇い入れるとか、会社の宣伝広告活動をするなどのことです。したがって、判例に照らすと、会社成立前に従業員を雇い入れたり、宣伝広告活動をしたりしても、その契約は「開業準備行為」に該当するため、成立後の会社との関係では無効(つまり、契約の相手方は代金等を会社に請求できない)ということになります。

ただ、上記判例は、「開業準備行為」に該当するものであっても、「財産引受け」(会社成立を条件として財産を購入するという契約)は、会社法上の厳格な要件(定款への記載及び検査役の調査)を満たすから、成立後の会社との関係でも有効であると判示しています。

4 救済

では、「開業準備行為」の相手方となってしまった者は、会社との関係では開業準備行為たる契約が無効とされる結果、契約で定めた代金等を、誰にも請求できなくなってしまうのでしょうか。この問題については、民法117条が類推適用されると考えられています。つまり、契約の相手方が、会社が未成立であることを知らず、かつ、それを知らなかったことに過失がないと認められる場合に限り、会社ではなく、開業準備行為たる当該契約を行った発起人に対して、契約に定めた代金等を請求したり、損害が発生していれば損害賠償を請求したりすることができます。発起人が、会社が成立しているかのように振る舞って開業準備行為たる契約を締結したような場合は、その契約の相手方は、発起人に対して、代金等を請求することは可能でしょう。ただ、成立後の会社に対して請求することができるわけではないことに注意が必要です。