流動集合動産譲渡担保について

流動集合動産譲渡担保について

今回は「流動集合動産譲渡担保」について説明したいと思います。

まず、譲渡担保というのは、例えば、ある建設会社AがB銀行と300万円の金銭消費貸借契約を締結し、その担保としてA社所有の建設機械甲(時価500万円)の所有権をB銀行に譲渡するというものです。

この場合、B銀行が譲渡担保権を第三者に主張できるようにするため、A社はB銀行に対して、甲を引き渡すことになりますが、占有改定(ある物を持っている人が、その物を持ったままでありながら、法律上引き渡しをしたと扱われる場合をいいます。民法183条)という方法をとるため、A社はその後も甲を使用することができます。その後、A社が期限までに借入金の債務の返済をすれば、甲の所有権はA社に戻ってくることになりますが、返済ができなければ所有権が確定的にB銀行にいってしまい、甲をB銀行に渡さなければならなくなります。

この譲渡担保は、上記の例のような動産だけでなく、不動産や債権などの権利も対象となります。また、動産を対象とする場合において、一つの物である必要はなく、複数の動産(集合動産)を対象とすることもできます。

さらに、商社であるC社の倉庫にある取扱商品全部とか、C社のとある店舗にある商品全部を対象にすることもできます。たとえば、C社とB銀行とが継続的に金銭の貸借りを行う関係にあり、その担保としてC社の倉庫にある取扱商品全部を一括してB銀行に譲渡することを合意するというような場合が考えられます。これを冒頭で述べた流動集合動産譲渡担保といいます。 その特徴としては、集合動産が流動することです。上記の例でいくと、当然C社は事業を継続して行っていくので、担保の中身である取扱商品は売却などによって集合動産から離脱することがあり、一方で、仕入れをすることにより新たな商品が集合動産として加わることになります。

次に、譲渡担保権の効力の一つである物上代位というものを説明します。

この物上代位というのは、担保権の目的物が売却され、あるいは、滅失・破損し、それが売買代金や保険金などの請求権となった場合に、これらの請求権にも担保権の効力が及ぶことをいいます。

例えば、最初の例でいきますと、元々A社が所有しており譲渡担保の目的物となった建設機械甲(甲につき損害保険契約があることを前提とします)が滅失してしまった場合、B銀行は担保を失うこととなってしまいそうです。しかし、この場合、A社は損害保険会社に対して保険金請求権を有することになり、B銀行は譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として、その請求権を差し押さえて、そこから回収することができるのです。なお、譲渡担保権の物上代位が認められるか否かについては争いがあります。

ここまで流動集合動産譲渡担保と物上代位について説明してきましたが、平成22年にそれらに関する重要な最高裁判決(最判平成22年12月2日)が出ました。

この判決の事案は、魚の養殖業を営んでいたXが、Y銀行から借入をしていたところ、その担保としてY銀行との間で養殖施設内の養殖魚を担保の目的とする譲渡担保権設定契約を締結しました。その契約においては、Xが養殖施設内の養殖魚を通常の営業方法に従って販売できること、その場合、Xはこれと同価値以上の養殖魚を補充することなどが定められていました。 その後、養殖施設内の養殖魚が赤潮により死滅してしまったため、XはA共済組合との間で締結していた漁業共済契約に基づき、その損害を填補するための漁業共済金請求権を取得したのですが、結局Xは養殖業を廃止しました。そして、Yが、譲渡担保権に基づく物上代位権の行使として上記共済金請求権の差押えの申立てをしたところ、それに対して、Xがその差押は認められないとして争ったのです。

この事案における主な問題点は、流動集合動産譲渡担保においては、設定者(上記の例でいうXのこと)が事業を継続していくこと、その中で個々の動産を第三者に売却譲渡できることが当然の前提となっているため、その動産が滅失し、保険金請求権等が発生したとしても、それに対する物上代位権の行使は認められないのではないかという点です。

この点について、最高裁判所は、流動集合動産譲渡担保は担保の目的である集合動産を構成するに至った動産の価値を担保として把握するものであるため、その効力は目的動産が滅失した場合の損害保険金に係る請求権等に及ぶとしました。もっとも、流動集合物譲渡担保契約は、設定者が目的動産を販売して営業を継続することを前提とするものであるため、設定者が通常の営業を継続している場合には、目的動産の滅失により上記請求権が発生したとしても、直ちに物上代位権を行使することができる旨が合意されているなどの特別の事情がない限り、譲渡担保権者が当該請求権に対して物上代位権を行使することは許されないと判断しました。

つまり、設定者が営業を継続している場合は原則として物上代位は認められず、一方で、営業を継続していない場合は認められるとされ、物上代位権行使の有無は、設定者の営業継続の有無に応じて異なるとされました。 そして、今回の事案においては、Yが共済金請求権の差押えを申し立てた時点において、Xは既に営業を廃止しており、営業を継続する余地はなかったとして、Yの差押を認めました。

今回は、流動集合動産譲渡担保について説明してきましたが、流動集合債権譲渡担保というものもあり、先ほども述べたとおり、様々な物が譲渡担保の対象となります。 また、譲渡担保については様々な問題点が存在し、専門的な判断も必要となります。 そこで、譲渡担保に関してお悩みの方は、是非一度、当弁護士事務所までご相談ください。