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一部執行猶予

カテゴリー 2018年12月20日

一.はじめに

ここ数年で改正された刑法で新たに認められた制度の一つに、一部執行猶予があります。

一般的に知られている全部執行猶予(従来は単に「執行猶予」といわれていました。刑法25条)の一種ですが、最近、私が担当した被告人の中に、この制度を知っており、一部執行猶予付きの判決を目指してほしいと言われました。

ただ、よく話を聞いてみると、その制度内容を正しく理解できていない様子でした。

そこで、今回は、一部執行猶予がどのような制度なのかを説明したいと思います。

二.一部執行猶予の概要

従来の刑法では、一定の範囲内の懲役刑又は禁錮刑、罰金刑の執行が猶予される場合、その全体が一定期間猶予される全部執行猶予のみが認められていました。

そして、猶予する期間の間に、その人が犯罪を犯して執行猶予の付かない禁固刑以上の刑の判決を受ける等の事情がない場合は、刑の執行が免除される(刑務所に行ったり、罰金を納めたりしないで済みます。ただ、この刑について前科はつきます。)ことになります。

これに対して、平成28年6月に施行された刑法では、全部執行猶予の他、一定の範囲内の懲役刑又は禁錮刑の一部の執行を猶予する一部執行猶予(刑法27条の2)が新たに認められました。

一部執行猶予付きの判決の主文は、例えば、「被告人を懲役1年に処す。その刑の一部である4月の執行を2年間猶予する。」という内容になります。

この判決が確定すると、判決を言い渡された被告人は、まず、懲役刑の全体(1年)から執行猶予される一部(4月)を除いた8月間、刑務所に入って服役することになります。

その後は、とりあえず刑務所から出所して社会で生活し、出所してから2年間、執行猶予を取り消されずに生活していれば、猶予されていた4月間の懲役刑は免除されることになります。

三.一部執行猶予の制度目的、要件

1.目的

一部執行猶予は、刑の全部について執行猶予を付けられない被告人の中で、刑務所で服役するよりも、社会の中で特別な処置を受けた方が、更生し再犯を防止することが期待できる者について、早期に社会に戻って同処置を受けられるように認められた制度です。

この、社会の中の方が更生や再犯防止を期待できる者とは、大麻や覚せい剤といった違法薬物の中毒者や、いわゆるクレプトマニア、飲酒すると運転等の犯罪を犯す傾向にあるアルコール依存症患者等、医学的な治療等を受けることで再犯を防止できると考えられる者を指します。

つまり、一部執行猶予は、全部執行猶予を付けるか否かを判断し難いような案件の被告人に対して付けるために認められた制度ではありません。

2.要件

一部執行猶予が付くための要件は、以下のとおりとなっています。

(1) 刑法に定められた一部執行猶予が付くためには、次の3つの要件を満たす必要があります(刑法27条の2第1項)。

ア. 被告人が、①前に禁錮以上の刑に処せられたことのない者、②前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その刑の全部の執行を猶予された者、③前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者のいずれかであること

簡単にいうと、被告人が、前に禁錮以上の刑に処せられて、その刑の執行が終了(刑務所から出所)してから5年経過していない場合には一部執行猶予は付かないということです。

イ.被告人が、3年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受けたこと

現在の裁判で言い渡される刑が、3年以下の懲役又は禁錮であることです。なお、制度目的から、全部執行猶予の対象であった罰金刑に、一部執行猶予が付くことはありません。

ウ.再び犯罪をすることを防ぐために必要であり、かつ、相当であると認められること

この要件で、先程の制度目的で説明しました、刑務所内での服役よりも、社会の中で特別な処置を受けた方が、被告人が更生し再犯を防止することを期待できるか否かを判断されることになります。

(2) また、被告人が言い渡される犯罪が、覚せい剤や大麻といった特定の薬物を使用したこと等に関する罪である場合、先程の要件のうち、アの要件を満たしていなくても、イ・ウの要件を満たすだけで一部執行猶予が付くことになります(薬物法3条)。

これは、一部執行猶予の制度目的である、社会の中で特別な処置を受けた方が更生し再犯を防止することが期待できる者の典型例が、違法薬物の使用者であることから、このような者について、一部執行猶予を付ける必要性、相当性が他の犯罪を犯した者より高いと判断されたからだといわれています。

四. 一部執行猶予のメリット、デメリット

1.一部執行猶予付き判決が下された場合、実際に言い渡された刑全部よりは短い期間で刑務所から出所することができます。

そのため、執行猶予を取り消されないように生活するという本人の努力が必要不可欠となりますが、執行猶予の付かない判決を言い渡される場合よりも、一部執行猶予付き判決を言い渡される場合の方が、早期に社会復帰し得るという点では、被告人にメリットが有ると言える場合もあるでしょう。

2. ただ、この点のみに注目して、執行猶予の付かない刑よりも一部執行猶予の付いた刑の方が刑の重さは軽いと考えている人がいますが、それは正確ではありません。

(1) なぜならば、(一部か全部かを問わず)執行猶予期間は、社会に復帰することはできますが、自由に生活できるわけではないからです。

一部執行猶予が付される場合、被告人によっては、保護観察に付され(刑法27条の3第1項)、猶予期間中に遵守すべき事項(更生保護法50条、51条等)を守らなければ、執行猶予が取り消されるおそれがあります(刑法27条の5第2号)。

また、保護観察に付されていなくても、交通違反等により罰金を納めることになった場合や、自分に一定程度以上の過失が認められる態様で交通事故を起こし、相手や同乗者等を怪我させた結果、罰金刑や懲役刑、禁錮刑に処された場合等には、執行猶予が取り消される可能性があります。

(2) さらに、執行猶予期間を満了したとしても、その後に再び犯罪を犯した場合、量刑(罪名が決まった上で、どれくらいの重さの刑にするかを判断すること。)の左右する事情の1つとして、前回の刑を終えてからどれくらいの期間が経過したか、が考慮されます。

この場合、「前回の刑を終え」た時点は、刑務所から出所した時点ではなく、執行猶予期間が満了した時点となります。そのため、前回の刑が一部執行猶予付きであった場合と、同執行猶予がつかなかった場合を比べると、上記の量刑事情においては、同執行猶予付きの場合の方が不利に扱われます。

3.このように、一部執行猶予の付いた判決が、執行猶予の付かない判決よりも有利に働くとは必ずしもいえるものではないので、万が一、あなたや知り合いが犯罪を犯し、裁判において一部執行猶予が付く可能性があったとしても、安直に付けることを望むのではなく、弁護人の先生と話し合い、一部執行猶予を付けた方が将来のために本当にいいのかをよく考えて判断するのがよいと思われます。

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